在宅に届ける介護

戦後の日本の経済復興を築いてきたのは、それまで無条件に戦争に駆り出されてきた、市井の民衆だ。終戦によって「死」が賛美されたり社会的に強制されることがなくなった。結婚し家族を成し子供を育てるという人としての自然な喜びが解放された世代の人たちである。

子供の成長を見守り、家族の幸せをわが喜びにする新しい家族に、政府は　一貫して持ち家政策を勧めた。50年代半ばに3種の神器といわれた≪テレビ・洗濯機・冷蔵庫≫。これらは豊かになっていく戦後の家庭を彩った。さらに　江戸から長く借家住まいが一般的だった都市東京の暮らしに　≪持ち家≫というバラ色の住宅政策を提唱してきた。

税制面をはじめ様々な金融政策でも持ち家優遇路線は　今日まで変わっていない。一生に一度の大きな買い物として、膨大な住宅ローンを抱えて持ち家を確保した市民が、今70代、80代になって持ち家の維持管理に問題を抱えている。

高齢の親が亡くなったり、あるいは一人で暮らしていくのが難しくなり高齢者施設に移ると、残された家はそのまま放置され、荒れ果てた空き家になっていく。日本の残された住宅の荒廃ぶりに、国を挙げての「持ち家政策」に、果たして周辺の自然環境や道路インフラ等についてまでイメージする国土開発構想が　あったのか、疑問になる。

訪問介護の仕事は　同時に「持ち家」に寄せる人々の思いに寄り添う事でもあると思う。